ミチコのへや

【Vol.2】『あるあつーい夏の日 後編』

「ミチコのへや?」

うさぎちゃんが首を傾げると、ジャスミンちゃんが手招きしました。

「ここは不思議なおへやなの。ほら、この窓を覗いてみて」

言われた通り窓を覗いたうさぎちゃんはびっくり。「ゴリラくんっ」と大きな声で呼びました。

「窓の外に大きな水たまりがあるよ」

窓の側に寄ったゴリラくんは、あぁ、と頷くとうさぎちゃんに教えてくれました。

「あれは、海っていうんだよ」

「うみ?」

ぼくらが棲んでいる地球の、表面の7割を占めている、しょっぱい水のことさ。はて、この町に海はないはずだけど……」

ジャスミンちゃんはふふっ、とほほえみました。

「ここは不思議なおへやだもの。窓が海に繋がっていることもあるわ」

すると、うさぎちゃんがピョンッと窓から飛び出しました。

「海、もっと近くで見たい!」

これには2人もびっくり。ジャスミンちゃんとゴリラくんは慌てて後を追いかけました。

波打ち際まで来たうさぎちゃんはそのまま海に走り込みました。けれど、波が足元をさらっていく感触に驚いて、ジャスミンちゃんの後ろに隠れます。

「私、初めて海辺まで来たわ」とジャスミンちゃんも海に足を浸しました。「窓を飛び越えたことなんてなかったもの。気持ちがいいわね」

しばらく隠れたままじっと波を見ていたうさぎちゃんがハッと気づきました。

「『ミチコのへや』の塗り壁に似てるね」

「たしかに。海の波が塗り壁の模様にそっくりだ」

ゴリラくんが付け足すと、ジャスミンちゃんは「それはいいわね!」と笑いました。

あの塗り壁を見るたびに、あなたたちと海で一緒に遊んだことをきっと思い出すわ」

「ジャスミンちゃん、うさぎちゃん」と、ゴリラくんがカメラを取り出しました。

「うさぎちゃんの海デビューを祝して、ぼくが写真を撮ってあげるよ」

ゴリラくんが合図の手をあげました。

「はい、チーズ」

(文:富士川 三希)

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